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砂場の魅力~子どもの腸内環境と免疫への好影響~

 前回は砂場での遊びが園児のからだに与える好影響を整理しました。では、(泥)遊びがどのように腸内環境を変え、アレルギー発症を予防していくのでしょうか。今回は、ベースとなる腸内細菌叢の獲得の仕方から見てましょう。

子どもの腸内細菌叢獲得の仕方

 乳児の腸内細菌は、産道を通り生まれてくる時、母親の腸内細菌が移り住みます。受け継いだ母親の腸内細菌をベースに独自の腸内細菌叢を、多用な菌に触れながら獲得していきます。この独自の腸内細菌叢の状態は3歳までに出来上がっていくといわれています。除菌の度を超すと、獲得できる腸内細菌の数が少ない状態で腸内環境が決定されてしまうので、この時期までにあらゆる菌を、食や皮膚から取り入れることが大切です。(3歳までに獲得した腸内細菌の種類と数は、生涯大きく変化しません。因みに、「腸内環境が良い」というのは、腸内細菌の善玉菌が多いことではなく、多様な種類の腸内細菌がいることを指します)。

土(泥)遊びによる皮膚の菌と腸内細菌

 園庭を28日間、森の土や植物を植えた環境に変えるという介入をしたフィンランドの研究*によると、対象園児(3~5歳)の皮膚は、土壌の中にある細菌、中でもガンマプロテオ細菌(大腸菌、サルモネラ菌など)の種類の他にも多くの微生物が確認されました。腸内の細菌も皮膚同様の結果が得られました。なぜ皮膚に触れることで土(泥)と同じ微生物が腸内に確認されるに至ったか論文に記載はなかったが、土(泥)で遊んでいる最中、そこから菌などが舞い上がり浮遊しているものを口から吸いこんだのか、手に触れた土をたべたのか(手洗い後に洗い落とせなかった爪奥にある土を指しゃぶりなどしたのか)は定かではありません。土と戯れる環境の中に身を置くと、きれいな植物を育てる土の恩恵をヒトも受けると推測されます。(因みに、土壌1gに対し10億個以上の微生物(細菌やカビ、ウイルス)が存在するものの、これらが有毒株を有していれば病原菌となりえるがほとんどが無毒株であるので、土の菌に過剰に反応する必要はありません)。

土(泥)遊びによる炎症性物質の低下と免疫細胞活性化

 フィンランドでの研究に参加した園児の血液を分析*すると、炎症物質(サイトカイン)が減り、炎症を抑える制御性T細胞(免疫細胞リンパ球の仲間)の割合は増加していました。この制御性の白血球がきちんと働くことで、過剰に反応していた免疫細胞の暴走を抑え、アレルギー発症の低下や発症程度の軽減に繋がります。
 因みに、腸内細菌叢が土壌中にある酪酸菌を獲得することで、食べ物由来の食物繊維が分解され、そこから生じた酪酸(短鎖脂肪酸の1つ)によって制御性T細胞を増加させる働きがあることも報告されています。つまり、土(泥)遊び以外にも、食物繊維豊富な食べ物を食する習慣をもつことで、炎症を抑える免疫細胞の活性化が期待されます。
 3歳までに腸内細菌の状態はある程度固定されてしまいますが、フィンランドの研究で積極的に土の微生物に触れる環境を取り入れていけば、腸内細菌の種類が多様化し、アレルギー発症の低下や発症程度の軽減が期待できることがわかってきました。保育者として、子どもの免疫を高めアレルギーを予防したいのなら、家でも活発に土(泥)遊びを推奨していくスタンスをもつことが大事だといえます。

*Roslund MI, et al., Biodiversity intervention enhances immune regulation and health-associated commensal microbiota among daycare children, Science advances. 2020 10;6(42); pii: eaba2578.

(https://pmc.carenet.com/?pmid=33055153)

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